(22)『赤頭巾ちゃん気をつけて』

庄司薫  『赤頭巾ちゃん気をつけて』   2007年2月

小田島 本有    

 庄司薫の「薫くんシリーズ」は、昭和40年代半ばから50年代にかけて、当時の若者たちにとって定番的な意味合いをもった作品であった。そのさきがけとなった『赤頭巾ちゃん気をつけて』は、学生運動はなやかなりし頃、東大入試中止を契機に浪人を決めた日比谷高校(ここは当時の東大合格者トップを誇る超有名校だった)出身の薫くんの饒舌な語りが特徴的である。
 学生運動そのものが昔日のものとなった今改めてこの作品を読み返してみると、薫くんの確かな地歩が浮き彫りになってくる。彼は決して学生運動には加担しない。それは怖いからではなく、運動に明け暮れる学生達が自ら「動いている」のではなく「動かされている」ことを知っているからである。また、彼が東大にこだわるのは、そこで学びたいと思わせてくれた先生とじかに接する機会があったからであり、盲目的な東大病のゆえではない。知らない人から見れば、彼は「日和見主義者」であり「受験競争に勝ち抜くエリート候補」ということになりかねないが、そのような紋切り型のレッテルこそが空疎なものでしかない。
 彼が誠実に求めようとしていたもの、それは受け売りや借物ではない、自分の態度や言葉であった。ある日、彼は街の本屋へ入った途端「吐き気のような不快感」に襲われる。これは、彼が街を歩いていて見かけたヘルメット学生たちに感じた「苛らだたしい反撥」と通底し合うものだろう。そのとき、彼は偶然幼い女の子と出会い、癒される。彼女が探し求めていた本が『赤頭巾ちゃん』だった。彼女のためにもっともふさわしい本を探してあげる薫くん。立ち去っていく彼女に「気をつけて」と彼が叫ぶと、女の子も振り返り「あなたも気をつけて」と言ったように彼には聞こえた。このときの交流に彼は発見をしたのである。大言壮語して社会変革を叫ばなくても、身近にいるいとおしい存在を守れる男になることが大切であることを。彼が絶交状態にあった幼なじみの由美に会いに行くのはその決心の表れである。
 『赤頭巾ちゃん気をつけて』は、東大入試中止を一つのきっかけとして<自分探し>をする若者の姿を描いている。彼が得た結論はささやかなものかもしれないが、それ自体は彼の実感に根差した実質あるものなのだ。