(98)『女ざかり』

丸谷才一 『女ざかり』 2013年6月

小田島 本有    

 新日報社の論説委員となった南弓子は才色兼備の女性。その彼女の書いた社説が筆禍事件に巻き込まれる。
 彼女の書いた社説は必ずしも過激なものとは言い難い。彼女はここで水子供養塔除幕式に参列した元首相が妊娠中絶、産児制限に対して暴言を吐いたことを取り上げ、女性の立場への眼差しが必要であることを訴えた。だが、これが水子供養で儲けている某宗教団体を刺激することになる。この宗教団体が政府与党に多くの資金を出しており、一方、新社屋建設の予定がある新日報社はこれが引き金となって用地払い下げが暗礁に乗り上げかねない。
 その打開策として考えられたのが弓子を論説委員から外すというシナリオだった。だが、上司から部長待遇で事業局へ移ってもらいたいと言われても、文章を書くことにこだわる弓子は頑として応じない。やがて彼女はこの背後にある事情を知るようになり、解決の道を模索し始める。
 娘が困っていることを知った母親の悦子が家族会議を招集するくだりは傑作だ。悦子(母)、弓子、千枝(娘)、さらに柳雅子(元女優の柳あえか、伯母)、この4人の女が集まれば何とかなるというわけである。
 雅子は若いころ、現在の首相である田丸信伍と愛人関係にあったことが分かる。また、千枝が関わりのある大沼晩山は、歴代の政治家たちが入門した書家である。信伍も例外ではない。雅子は弓子と共に深夜の首相官邸を訪れ、信伍に直談判する。一方、千枝は友人の大学助教授、渋川健郎と二人で晩山のもとを訪れることになった。
 雅子が信伍と話している間、廊下で待っていた彼女のもとに現れた老女は首相夫人。ヘルペスが脊髄に入ったため子供のようになってしまい、信伍も警戒をしていたはずだが、彼女はふらふらと首相公邸を出て官邸に顔を出してしまったのである。ひょんな経緯から弓子が首相夫人に公邸まで連れて行かれるシーンは興味深い。後から入ってきた信伍と弓子が会話する場面は、首相田丸信伍のプライベートな顔が伺える。
 『女ざかり』を読んでいて興味深いのは、誰もが同じ目線で語られているという点だ。首相の田丸信伍しかり、筆禍事件に巻き込まれた弓子も、すべてが解決した後で愛人の哲学教授・豊崎にホテルの部屋で日頃の不満を大声で吐き出す場面がある。このため何度か隣の部屋から壁を叩かれ、最後はドアをノックされる。豊崎が怒鳴りこまれることを覚悟してドアを開けたところ、足元に置き手紙があり、その場を立ち去って行く男の後ろ姿があった。「大変ですね/一時間ばかり/散歩して来ますから/その間に万事/解決せられよ」
 洒落ていて、しかもユーモラス。読者が思わずにやりとしてしまう場面と言えよう。